法定養育費とは?
日本では、離婚の約9割が夫婦間の話し合いによって成立する「協議離婚」です。
協議離婚では、養育費について取決めをしていなくても離婚することができます。そのため、養育費の金額や支払方法を決めないまま離婚するケースも少なくありません。
しかし、養育費は請求をして初めて「別居して子どもを養育していない親(非監護親)」に具体的な支払義務が発生することになり、離婚した日にさかのぼって養育費を請求することはできないとされていました。
そのため、離婚後に養育費について話し合いがまとまらず、調停などによって養育費を請求するまでの間は、子どもの生活費や教育費などを、「子どもと一緒に暮らしている親(監護親)」が負担せざるを得ない状況が生じていました。その結果、監護親の経済的な負担が大きくなり、子どもの生活や養育に影響が及ぶことも懸念されていました。
このような問題を解消するために設けられた制度が「法定養育費」です。
法定養育費とは、協議離婚をした場合に、夫婦の間で正式な養育費の取決めがされるまでの間に、暫定的・補充的に一定額の養育費を請求できる制度です。
つまり、離婚後に養育費について話し合いなどを行っている間に、養育費が全く受け取れないという「空白期間」をできるだけなくし、子どもの生活を守るための補充的な仕組みといえます。
法定養育費はいくら?
法定養育費の額は、子ども1人につき月額2万円です。
例えば、子どもが2人いる場合には、原則として月額4万円、子どもが3人いる場合には、原則として月額6万円を請求することができます。
ただし、この月額2万円は、父母が最終的に決めるべき養育費の「標準額」や「最低額」を定めたものではありません。
実際の養育費については、父母それぞれの収入、子どもの年齢や人数、生活状況、教育に必要な費用など、さまざまな事情を考慮して決めることになります。
そのため、法定養育費が月額2万円だからといって、正式に決める養育費も必ず月額2万円になるわけではありません。
法定養育費は、あくまでも正式な養育費の取り決めがされるまでの間、子どもの生活を支えるための暫定的な制度です。
法定養育費はいつから請求できる?
法定養育費は、2026年(令和8年)4月1日以後に発生した協議離婚又は認知等に適用されます。
また、離婚した日から引き続き子どもを主として監護している父または母が、もう一方の親に対して請求することができます。
例えば、2026年4月10日に離婚し、その後も子どもと生活しながら主として監護している親は、養育費についてまだ正式な取決めをしていない場合であっても、法定養育費を請求することができます。
なお、法定養育費は、原則として次のいずれかの時点まで発生します。
父母の話し合いによって、養育費の金額や支払期間などについて取決めをした場合には、その取決めに基づく養育費へ移行します。
父母の話し合いで養育費が決まらず、家庭裁判所の手続によって養育費の額が決まった場合にも、法定養育費はその暫定的な役割を終えることになります。
法定養育費は、子どもが成年に達するまでの制度です。
法定養育費は本来の養育費についての取決めがされるまでの暫定的な制度であるため、その範囲も最低限のものとされています。
ただし、一般的な養育費については、父母の取決めによって「大学卒業時まで」など、18歳を超える期間について定めることもあります。
離婚前の別居期間中は、法定養育費は発生しません。
2026年3月31日以前に離婚した場合は?
法定養育費の制度が適用されるのは、2026年(令和8年)4月1日以後に協議離婚した場合です。
そのため、2026年3月31日以前に離婚している場合には、法定養育費は発生しません。
すでに離婚していて養育費の取決めがない場合や、養育費の金額について改めて決めたい場合には、父母間で話し合いを行うほか、必要に応じて家庭裁判所の調停などの手続を利用することになります。
法定養育費と通常の養育費の違い
法定養育費と、父母の話し合いや家庭裁判所の手続によって決める通常の養育費には、大きな違いがあります。
法定養育費は「暫定的な養育費」
法定養育費は、正式な養育費の取決めがない場合に、一定の条件のもとで発生する暫定的・補充的な養育費です。
金額は、原則として子ども1人につき月額2万円とされています。
通常の養育費は「個別の事情を考慮して決める」
一方、通常の養育費は、父母の収入や生活状況、子どもの人数や年齢、教育費など、それぞれの家庭の事情を考慮して決めます。
そのため、実際に決める養育費の額は、法定養育費の月額2万円より高くなることもあれば、個別の事情を踏まえて異なる金額となることもあります。
また、通常の養育費では、支払期間について「子どもが20歳に達するまで」や「大学を卒業するまで」など、子どもの状況に応じて具体的に取決めることもできます。
法定養育費と通常の養育費の比較
| 項 目 | 法定養育費 | 通常の養育費 |
|---|---|---|
| 養育費の取決め | 取決めをしていなくても請求可能 | 父母の協議や家庭裁判所の手続で決定 |
| 金 額 | 子ども1人につき月額2万円 | 父母の収入や子どもの状況などを考慮して決定 |
| 性 質 | 暫定的・補充的 | 個別の事情を踏まえた正式な養育費 |
| 発生時期 | 離婚の日(当日を含む) | 父母の取決めや家庭裁判所の判断による |
| 支払期間 | 正式な養育費が決まるまでなど | 父母の取決めや家庭裁判所の判断による |
法定養育費があるから、養育費の取り決めをしなくてもよい?
法定養育費の制度ができたからといって、養育費について正式な取り決めをしなくてもよいというわけではありません。
法定養育費は、あくまでも養育費が正式に決まるまでの間を補うための制度です。
子どもの成長には、日々の生活費だけでなく、教育費、医療費、進学費用など、さまざまな費用が必要になります。
そのため、できるだけ早い段階で、父母の収入や子どもの生活状況を踏まえた適切な養育費について話し合い、具体的な取り決めをすることが重要です!
養育費の取り決めは書面に残すことが大切
養育費について父母の間で話し合いがまとまった場合には、その内容を口約束だけで済ませるのではなく、離婚協議書などの書面に残しておくことが重要です。
離婚後は、生活環境や考え方が変わることで、「言った・言わない」のトラブルが生じることがあります。
養育費の金額や支払日、支払期間などを明確にした離婚協議書などを作成しておくことで、後のトラブルを防止しやすくなります。
また、将来、養育費の支払いが滞った場合に備え、取り決めの内容をどのような形で書面化するかについても、十分に検討することが大切です。
よくある質問
養育費債権に先取特権の付与
私的合意書でも一定額について差押えが可能に
今回の民法等改正では、養育費の債権に「先取特権」という優先権が認められることになりました。
これにより、公正証書や家庭裁判所の調停調書、審判書、判決などの「債務名義」がなくても、養育費の取決めの際に父母間で作成した「合意書」に基づいて、一定額について差押えの手続を申し立てることができるようになりました。
また、先取特権が認められた養育費については、他の一般債権者に優先して弁済を受けることができます。
改正前はどうだった?
これまでは、父母の間で養育費について合意し、合意書を作成していたとしても、その合意書だけを使って直ちに相手の財産を差し押さえることはできませんでした。
養育費の支払いが滞った場合に強制執行を行うためには、原則として、公正証書や調停調書、審判書、判決などの「債務名義」が必要でした。
そのため、相手方が任意に公正証書の作成に協力してくれない場合には、家庭裁判所で調停・審判などの手続を行い、債務名義を取得したうえで、さらに強制執行の申立てを行う必要がありました。
養育費の金額が比較的少額である場合には、このような手続上の負担が、養育費の請求をためらう一因となることも考えられます。
改正後はどうなる?
今回の改正により、養育費の債権に一定の先取特権が認められたため、父母の間で作成した養育費の合意書に基づき、債務名義がなくても、一定額について差押えの手続を申し立てることが可能となりました。
つまり、養育費の取り決めをした後に支払いが滞った場合でも、従来のように、まず家庭裁判所で調停や審判などを行って債務名義を取得するという手続を経ずに、一定の範囲で差押えを申し立てることができるようになったのです。
養育費のうち先取特権が付与される上限額
もっとも、養育費のすべてについて先取特権が認められるわけではありません。
法務省令では、先取特権が付与される養育費の額について、子ども1人につき月額8万円と定められています。
子どもが複数いる場合は、子どもの人数に応じて算定されます。
例えば、子ども1人について月額10万円の養育費を支払うとの合意をしていた場合には、原則として、月額8万円までの部分について先取特権を利用した差押えが可能です。
一方、残りの2万円についても差押えを行いたい場合には、その部分については従来どおり、原則として公正証書や調停調書などの「債務名義」が必要となります。
なお、子どもが2人の場合には月額16万円、3人の場合には月額24万円が先取特権の対象となる額となります。
2026年3月31日以前に離婚した場合も対象になります
「2026年4月1日から民法等改正法が施行されたので、それより前に離婚した人には関係ないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、民法等改正法の施行前に離婚し、すでに養育費の取り決めをしていた場合であっても、2026年4月1日以降に発生する養育費については、改正後のルールが適用されます。
2026年3月31日以前に離婚して養育費の合意書を作成していた方についても、2026年4月以降に発生する養育費については、一定の範囲で先取特権を利用できる可能性があります。
ただし、民法等改正法の施行前にすでに発生している養育費についてまで、今回の先取特権が遡って適用されるわけではありません。
養育費の先取特権の要件
先取特権を利用して養育費を回収するためには、養育費について合意したことを証明できる「取決めを裏付ける文書」が必要です。
ここでいう「取決めを裏付ける文書」とは、具体的には次のような書類をいいます。
| 取決め方法 | 取決めを裏付ける文書 |
|---|---|
| 父母間の話し合いで取り決めた場合 | ・離婚協議書、養育費の合意書など ・離婚公正証書 |
| 裁判所の手続で取り決めた場合 | ・調停調書 ・審判書 ・判決書、和解調書 |
離婚協議書や養育費の合意書は、裁判所などの公的機関が内容を確認することなく、離婚する夫婦など当事者同士の話合いによって作成することができます。
そのため、後に養育費の請求や各種手続などでこのような書面を利用する場合には、養育費の金額や支払方法、支払期間などの合意内容が明確に記載されているか、当事者双方の合意に基づいて作成されたものかといった点が確認されることがあります。
書面の形式や内容に不備がある場合には、その書面だけでは合意内容を十分に確認できないものとして、追加の資料や説明を求められる可能性もあります。
インターネット上のテンプレートなどをそのまま利用して「離婚協議書」や「養育費の合意書」を作成すると、必要な事項が記載されていなかったり、個々の事情に合わない条項が含まれていたりするおそれがあります。
行政書士離婚協議書や養育費の合意書を専門家に依頼して作成することで、当事者間の合意内容を整理したうえで、必要な事項を適切に盛り込み、記載漏れや内容上の不備をできる限り防ぐことができます。
養育費の取り決めは書面に残しておきましょう
今回の民法等改正によって、養育費の取り決めの実効性を高めるための制度が整備されました。
もっとも、先取特権を利用するためにも、まずは養育費について父母の間で明確な取り決めをしておくことが重要です。
養育費については、金額だけでなく、支払期間、支払日、支払方法、子どもの進学・病気・事故などによって特別な費用が発生した場合の負担方法などについても、あらかじめ具体的に定めておくことで、将来のトラブルを防ぎやすくなります。
離婚時に養育費などについて合意する場合には、将来の支払いが滞った場合も見据えて、実効性のある「離婚協議書」や「合意書」を作成しておくことが大切です。



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