「離婚」や「夫婦・男女問題」に関する契約書の作成を専門としている香川県高松市の行政書士やまもとです。
以前の記事、「養育費の相場と未払いの時の対処法とは?」では、養育費の相場と未払い時の対処法について解説しました。
今回は、養育費の支払いを確実にする方法の一つとして、連帯保証に焦点をあてて解説しています。
そもそも、養育費の支払いに連帯保証人をつけることはできるのでしょうか?
連帯保証人をつけられたら安心なんだけど…
養育費
子どもには養育費を受け取る権利がありますが、「離婚後は元配偶者とかかわりたくない」「子どもに会わせてくれないなら払わない」などという親の勝手な事情により養育費が受け取れていない場合が多いようです。
ですが、養育費は子どもの成長に欠かせないお金です。
養育費の額や支払条件については法律的な決まりがありません。そのため、話し合って決めることになります。養育費の額、支払期間、支払方法について具体的に取り決めておきましょう!
養育費に含まれるもの
養育費には、子育てに関する費用の全てが含まれます。
子どもの生活費、教育費、医療費、交通費、娯楽費、お小遣い。
元配偶者が再婚した場合であっても、原則として元配偶者から養育費を受け取ることのできる権利に変わりはありません。
「養育者の再婚」や「子どもの養子縁組」があった場合には、養育費の減額または免除となるよう離婚協議書などに取り決めておくこともできます。
養育費の支払期間
養育費の支払期間について、離婚時に取り決めをしている場合には、原則としてその通りの期間支払うことになります。
取り決めをしていない場合は、社会的・経済的に自立するまで支払うことになります。
一般的には、支払期間として「子どもが成人するまで」or「教育機関を卒業して就職するまで」とされる場合が多いようです。
養育費の支払いの実情
信じられないかもしれませんが、養育費を一切受け取れていない「母子家庭」も珍しくはないのです。
令和3年度の「母子家庭」は約120万世帯、父子世帯は約15万世帯となっており、
そのうち、養育費の支払いの取り決め自体については、約過半数が「取り決めをしていない」状況となっています。(※ 令和3年度の調査結果は推計値)
過去には養育費を受け取っていたけれど、養育費が途中から支払われなくなったというケースも少なくないようです。
連帯保証人
連帯保証人はつけられる?
離婚後、元配偶者が約束どおり養育費を支払ってくれるかどうか不安なので、支払いの安全性を高めるための手段の一つとして保証人をつけることを検討する場合があります。
その場合、配偶者(養育費支払義務者となる者)の両親にお願いするケースが考えられますが、そもそも養育費の支払いに連帯保証人をつけることはできるのでしょうか。
連帯保証人をつけること自体は可能です。
養育費の支払いの安全性を高めるには、次の方法が考えられます。
① 離婚公正証書を作成する
② 養育費の支払いに連帯保証人をつける
配偶者の両親にお願して連帯保証人となってもらう場合に注意すべき点は次のとおりです。
◆ 配偶者の両親の承諾を得ること。
◆ 内容を書面にすること。
(※「保証契約」をご参照ください。)
保証人と連帯保証人の違い
保証人と連帯保証人は、養育費支払義務者(元配偶者)が養育費の支払いができなくなった場合、代わりに支払う義務を負うという点において同じですが、以下の点で違いがあります。
①養育者がいきなり保証人に対して請求をしてきた場合、
②養育費支払義務者に養育費を支払う資力があるにもかかわらず支払いを拒否した場合、
以上のように、連帯保証人には保証人より重い責任が課せられています。
保証契約
保証契約とは、主たる債務者(元配偶者)が弁済できない場合に、主たる債務者に代わって債権者(養育者)に支払いの義務を負う約束をする契約です。
連帯保証契約や根保証契約と呼ばれる類型があり、それぞれの保証契約で内容も異なります。
民法改正によって保証契約に関するルールが変更されました。
民法第446条第2項
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
以上より、連帯保証人をつけることについて「配偶者の両親」の承諾を得られた場合、養育者と「配偶者の両親」との間で連帯保証契約を締結し、当該契約内容を記載した書面を作成する必要があります。
養育費の連帯保証 | |
連帯保証契約 (書面による合意が必要) | 〔契約の当事者〕 養育者 ⇔ 配偶者の両親 |
養育費の支払義務者(元配偶者)の両親であるからという理由で、当然連帯保証人になってもらえるものと思っている方も少なからずいらっしゃいます。
「配偶者の両親」は必ず連帯保証人にならなければならない!…というわけではありません。
つまり、「配偶者が養育費を支払えないのだからその親(祖父母)が支払って!」と強制することはできず、養育者は「配偶者の両親」に対し、連帯保証人になることについて承諾してもらえるように任意での交渉が必要になります。
書面にする場合の注意点
改正民法により、原則として根保証となる連帯保証人には、極度額等の定めが必要になりました。
そして、養育費の連帯保証については、個人根保証契約にあたると考えられることもあるので、極度額(限度額)等をしっかり定めておきましょう。
極度額(限度額)を定めていない場合、効力が発生しないことになりますのでご注意ください。
連帯保証期間
養育費の支払いは、父母の生活保持義務に由来する義務であり、父母が死亡した場合には、養育費支払義務は消滅することとなります。
ですから、「子どもが18歳に達するまで養育費を支払う」と合意していたとしても、養育費の支払義務者である「元配偶者」が死亡した場合には、その時点で養育費の支払いは終了することになります。
また、養育費支払義務は、死亡した「元配偶者」の相続人に引き継がれることもありません。
養育費支払いの連帯保証人(祖父母)が負うこととなる連帯保証債務も、父母の養育費支払義務の消滅に伴って消滅します。なお、養育費を支払い終えた場合も同様です。
連帯保証人をつけるまでの流れ
養育者と元配偶者間で話し合いを行い、養育費の額(月々いくら支払うのか)や支払期間などについて取り決めをします。(※ 連帯保証人をつけるためには、具体的な請求権を発生させる必要があります!)
元配偶者の両親(祖父母)などに、STEP1で取り決めた内容を説明したうえで、養育費支払いの連帯保証をすることについて承諾を得ます。
養育費の支払いについて連帯保証契約が成立した場合、養育者、元配偶者、連帯保証人(元配偶者の両親)の三者が当事者となる公正証書を作成します。
公正証書には、養育費の取り決め内容だけではなく、連帯保証契約についても記載する必要があります。
公正証書(強制執行認諾文言付き)を作成することにより、養育費が支払われなくなった場合に裁判をすることなく、元配偶者と連帯保証人(元配偶者の両親)の財産を差し押さえて回収することが可能となります。
※ 公正証書を作成するには、原則、当事者全員が公証役場にて一堂に会する必要があります。
公正証書にできない場合もある?
私人(個人または法人)からの嘱託により、公証事務を担う公証人が権限に基づいて作成する公文書を公正証書といいます。
公証人によっては連帯保証人をつけることを認めてもらえない場合があります。
法律上、養育費の支払義務があるのは「元配偶者」であり、この義務が一身専属義務だからという理由が考えられます。
さらには、「元配偶者が事故等で死亡した場合」や「連帯保証人(元配偶者の両親)が死亡した場合」など、将来的に紛争が生じる場合も考えられるため、養育費支払いに連帯保証人をつけることについて公証人や家庭裁判所は消極的です。
子どもに対して生活保持義務を負担するのは父母であって、配偶者の両親(祖父母)ではありません。
実際問題として、養育費の支払いに連帯保証人をつけるのは難しい場合が多いです。元配偶者の養育費支払いに不安があり、連帯保証人をつけたい気持ちはよくわかりますが、それよりも優先すべきは法的効力です。
連帯保証人をつけるのが難しい場合には、連帯保証人がつかなくともよいので、養育費などの取り決めについて確実に離婚公正証書を作成しておきましょう!
すぐに強制執行の申立てができる状態にしておくことが重要です!
まとめ
◆ 連帯保証人(配偶者の両親)となる者が承諾すれば、養育費支払いに連帯保証人をつけることは可能!
◆ 連帯保証人とは、養育費支払義務者(元配偶者)が養育費を支払うことができなくなった場合、代わりに支払う義務を負うという点では保証人と同じ。しかし、連帯保証人には保証人より重い責任が課せられている!
◆ 養育費の支払いに連帯保証人をつける際に注意すべき点 ◆
① 連帯保証人となる承諾が必要!(強制はできず、任意でのお願いに留まる。)
② 書面の合意が必要!(極度額等をしっかり定めておく。)
③ 公証人によっては連帯保証人をつけることを認めてもらえない場合があることを考慮しておく。
※ 連帯保証人をつけるのが難しい場合には、配偶者との養育費などの取り決めについて離婚公正証書(連帯保証人なし)を必ず作成し、すぐに強制執行の申立てができる状態にしておきましょう!
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